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大阪高等裁判所 昭和48年(く)28号 決定

少年 T・M(昭二九・八・八生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年の附添人弁護士加地和作成の抗告申立書記載のとおりであつて、要するに(一)原裁判所が原決定を言い渡した際にはまだ適式な決定書が作成されていなかつたものと思われるから、原決定の言渡は、少年審判規則二条一項、三条一項に違反し、無効であり、原決定には決定に影響を及ぼす法令の違反があると主張し、更に(二)原決定の処分は著しく不当であると主張して原決定の取消を求めるものである。

よつて、少年に対する本件各保護事件記録および少年調査記録を調査し、さらに当審における事実の取調として右各記録とは別に当裁判所が昭和四八年六月一日原裁判所から追送を受けた本件の関係書類(原裁判所が原決定後に検察官から追送を受けた書類)をも調査して、次のとおり判断する。

(一)  法令違反の主張について

本件審判調書によると、原裁判所が昭和四八年五月一日の審判期日において審判の結果、即日少年に対し中等少年院送致の決定を言い渡したことが明らかであつて、このことと原決定書の記載内容とに徴してみると、右決定言渡の際決定書が作成されていなかつたものと推認されることは所論のとおりである。しかしながら、保護処分の決定の言渡には必ずしも所論のいうようにあらかじめ決定書が作成されていることを要するものとは解せられない。すなわち、所論引用の少年審判規則二条一項は決定をする場合に裁判官が決定書を作成すべきことを規定しているだけであつて、その決定書がかならずしも決定告知前に作成されることを要求しているものではなく、また所論引用の同規則三条一項は原決定のような少年法二四条一項の保護処分の決定を告知するには審判期日において言い渡さなければならないことを規定しているだけであつて、その言渡が決定書に基づいてなされることを要求したものではない。そして、少年法、少年審判規則には、審判期日における保護処分の決定の言渡の方式については判決の言渡についての民事訴訟法一八九条一項や刑事訴訟規則三五条二項に相当する規定は設けられていないばかりでなく、少年審判規則二条六項は少年法二四条一項の保護処分の決定の場合を除外することなく、裁判官が相当と認めるときは決定を調書に記載させて決定書に代えることを規定し、同規則四条二項但書が、保護処分の決定の場合にも決定をした裁判官がその決定の執行指揮をするについて急速を要するときは決定書または決定を記載した調書の謄本もしくは抄本に押印する方法によらないで少年の氏名、年齢、決定の主文等を記載した書面に押印して行なうことができると規定しているのは、むしろ、保護処分の決定を言い渡す際のみならず、その言渡後においても決定書の作成がまだなされていない場合を予定しているものとみられるのである。されば原裁判所が原決定を言い渡す際決定書が作成されていなかつたからといつても、所論のように原決定を違法とみることはできず、論旨は理由がない。

(二)  原決定の処分が著しく不当であるとの主張について

少年は、前に昭和四七年六月一日窃盗保護事件で保護観察処分に付せられていたのに、本件非行を重ねるに至つたもので、本件非行(道路交通法違反三件のほか単独または共謀のうえ五回にわたり駐車中の自動車からタイヤ、カメラ等を窃取したもの)の動機、態様、少年の性格、生活態度、両親の少年に対する原決定の指摘するような保護態度等記録に現われた事情に照らすと、少年を在宅保護によつて更生させることは困難であると認められる。少年は昭和四六年六月交通事故により受けた右大腿骨骨折等の傷害のため所論のいうように長期間療養生活を余儀なくされ、現在も後遺症として右下肢運動機能障害が残つているようであるけれども、その間も非行をくり返している点にかんがみ、少年の健全な育成を図るため少年を中等少年院に送致することとした原決定の処分は相当であつて、その他所論の点を考慮しても、原決定には著しい処分の不当の点は認められない。

以上の次第で、本件抗告は理由がないから、少年法三三条一項、少年審判規則五〇条により、これを棄却することとして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 細江秀雄 裁判官 八木直道 岡次郎)

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